Webアプリ開発事始 第22回

Webアプリケーションの現状とこれから 長谷川裕行
有限会社 手國堂

開発現場とWebアプリ

実際には、マスメディアで取り上げられているほどには、Webアプリケーションが大手を振って歩いているわけではありません。まだまだ旧来の方式との混在が続くでしょう。大きな変化は、これからやってくると思われます。


- 大きな変化は好まれない -

この連載コラムを書き始めた頃、知人のSE(システム・エンジニア)たちの多くは、SQL ServerなどのRDBMSをベースに、Visual BasicやDelphiでクライアント・サーバー型のアプリケーションを組んでいました。「さて、そろそろJavaも勉強しなくちゃなぁ」などという声が聞こえ始めたのも、この頃です。

「2年前にしては少し遅すぎないかな? その頃には、既にJavaは広く浸透していたはず……」と感じる人もいるでしょう。しかし、実際の業務アプリ開発現場では、最新の技術を貪欲に取り入れ、即座に実務処理に反映する――といった「冒険」は御法度です。

特に、それまで順調に稼働していた基幹系のクライアント・サーバー型アプリケーションは、できるだけそのまま――安定した状態で――稼働を続けたいものです。いくら流行だからと言っても、確実に安心できるかどうか分からないシステムに置き換えることは、クライアント(ユーザー)が納得しません。

そのようなこともあって、大規模で安定したシステム開発を手がけてきた組織――つまり、アプリ開発の老舗でノウハウをため込んでいる組織の開発者ほど、上述したような「そろそろJavaでも……」という形で、ここ数年の間にJavaやその他のWebアプリケーション開発に関心を持ち始めた――というのが実情のようです。


- 「事」は始まったばかり?! -

数年前までは、Javaと言ってもJavaアプレットやJavaScriptなど、いわゆるクライアントサイドJavaの情報が大勢を占めていました。サーバーサイドWebアプリケーションでは、JavaよりASP(Active Server Pages)関連の情報の方が多かったと記憶しています。筆者もASPの本を何冊か書きましたが、それでも当時は、目立って大きな反響はなかったように思います(内容が悪かったのかもしれません。←自省)。

ところが、この2~3年ほどの間に、書店でもJavaサーブレットやJSPなどなどのサーバーサイドWebアプリケーションの開発に関する書籍やムックが目立って増えてきました。時を同じくして、XML関係の情報も多く出回るようになってきました。

また、それまではAccessの入門レベルの書籍か、SQL ServerやOracleなどの専門的な書籍の両極端だったデータベース関連書籍も、中級程度の開発者をターゲットにした実務向けの内容のものが増えてきました。それらデータベース関連の書籍で目立ったことは、多くがASPのVBScriptやJSPなどWebアプリケーションでの利用を視野に入れている点です。

このように、Webアプリケーションの開発と運用に関する情報は、近年目立って広まってきました。


- これからが本当の「事始め」 -

実際、一部の先進的な組織を除けば、まだまだ多くの組織で従来のクライアント・サーバーシステムで稼働する(Webベースでない)OS依存型アプリケーションが稼働しています。これらが一朝一夕にWebベースに置き換えられるとは考えられません。ましてやこの不況の中、新たなシステムを開発する余力を持った企業は少数です。

確かに、無事稼働して業務が軌道に乗ってしまいさえすれば、Webアプリケーションは運用コストを抑えられて経済的です。しかし、そこにたどり着くまでの間に、開発の手間はもちろん、ネットワーク環境の見直しやユーザー教育などで時間とコストがかかってしまうのは、どのようなシステムでも同じです。

最近になって、一般ユーザーもWebブラウザを介したパソコン操作に馴染みがでてきました。また、データベース処理や帳票出力などを簡便化するツール類も揃ってきました。組織構成の見直しや企業の統廃合などによって不況を乗り越えようと考える企業にとっては、ネットワークとそれに関連する各種業務処理、業務フローまで見直しを図るチャンスです。

冒頭で「“事始め”という表現は過去のもの」と書きましたが、実のところ、「事が始まったばかり」と言えなくもない状況です。ここから徐々に、Webアプリケーションへの移行が始まるのではないかと考えています。


あとがき

最後に、筆者が日頃気にしている点をひとつ掲げておきます。それは、Webアプリケーションの「デザインと機構部の棲み分けと連携」の問題です。

どのようなプログラムでも、ユーザーに直接訴えかけるユーザーインターフェイス部と、内部でデータを処理する機構部とが噛み合っています。個人でフリーウェアを作る場合なら、すべてを1人で構築できるでしょう。業務アプリケーションでも、多くの場合処理によってある程度のパターンが決まっているため、ユーザーインターフェイス部のデザインはさほど重要な項目とは捉えられていません。むしろ、凝ったデザインは敬遠されます。

ところがWeb――特にインターネットでは、不特定多数のユーザーにアピールするため、組織ごとに独自の凝ったデザインを施すのが当たり前になっています。

本コラムでターゲットとしているのは、主に組織内のネットワークなので、インターネットのWebサイトについて深入りすることは避けたいのですが、これを無視することはできません。

Webサイトのデザインと実行されるアプリケーションの機能は、ユーザーから見ればいったいですが、内部では全く別の機構です。ここで問題となるのが、画面デザインとしっかり噛み合ったプログラムの機能――ということです。

プログラマーはデザインに強い関心がなく、デザイナーはプログラミングに疎い――というのが現状ではないでしょうか? ということで、次回はそのあたりの問題に触れてみたいと思います。


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