Webアプリ開発事始 第23回

WebサイトとWebアプリのデザインを考える(1) 長谷川裕行
有限会社 手國堂

すべてはユーザーのために

Webサイトの話に戻りましょう。重要なことは、各項目が「誰にとっても正しく分類されている」かどうかです。が、ここで言う「誰にとっても」は、あくまでWebサイトを閲覧する「ユーザー」でなければなりません。


- 構造を意識させない構造 -

サイトを作る側=情報を提供する組織の側にとって納得できるかどうかではなく、そこにアクセスする多くのユーザーが、知りたい情報のページにすんなりとたどり着けることが重要です。

最初に「誰だって、手早く、楽に結果を得たいもの」と書きました。そのために「技術は透明であるべき」とも書きました。Webサイトの構造も、その意味合い(構造がそうなっている理由)をユーザーに意識させないよう「透明」になるべきです。

もちろん、ここで言う「透明」とは、ユーザーから内容が見えないという意味ではありません(それでは意味がありません)。Webサイトを構成するページの分類やその分類に付けられた名前(項目名)が自然でその内容を類推しやすい、ということです。ユーザーに「構造を設計した人はどのように考えてこうしたのだろう?」「『よくある質問』に載っていない疑問は、一体どこで調べられるのだろう?」などといった余計な負担を、かけさせないことが「透明である=構造を意識しないですむ」ということです。


- ユーザーを把握する -

そうなると、コンテンツを分類する前にしなければならないことは明白です。「ユーザーはどのような人たちなのか」を把握しなければなりません。

「作る側」は、とかく「扱う人も自分たちと同じ程度に熟練している」ことを期待しがちです。そしてその期待は、多くの場合(ほぼ100%の確率で)見事に外れます。Webサイトだけではなく、ソフトウェアの開発でも、書籍でも自動車でもテレビでも、およそ商品はすべて「正しいユーザー像の想定」こそが基本です。

しかし、長らくソフトウェア業界では、この最も重要な点を見過ごしてきました。そのことは今でも「技術至上主義の悪弊」として尾を引いています。意味不明のメッセージ、分かりにくいマニュアル、ほとんど役に立たないQ&A……今さら取り上げるまでもありません。


- 局面によって言葉は変わる -

作成するWebサイトには一体どのような人がアクセスするのか――これを明確にすることが、すべての出発点です。例えば会議の席上で、あなたが新製品のメリットを説明するとしましょう。言いたいことはたくさんあるはずです。しかし、相手のことを考えずに自分の言いたいこと(この製品はこんなに便利で、しかもリーズナブルで、こんな新機能があって、そのために我々は大変な努力を重ねて……)をまくし立てても、効果はありません。

そこが営業会議なのか重役会議なのか、あるいは取引先を招いての発表会なのか、はたまた取扱店での店頭説明会なのか……場所によって、説明内容は大きく変わるはずです。営業会議なら、その商品をどう売り込めばよいのかを、重役会議なら自社にとってどのくらい有利かを、発表会なら売る側にとって顧客にどのような点を強調して欲しいかを、店頭なら顧客にとってどのくらい得するかを、それぞれ念頭に置いて強調しなければなりません。同じテーマでも、状況によって異なる言い回しが必要になるのです。


- 階層は煩わしい垣根 -

同じことがWebの基本設計にも言えます。パソコンやインターネットに不慣れなユーザーが多いと想定されれば、あまり凝った深い階層構造は避けるべきです。特にコンピュータの階層構造という考え方は、パソコンに不慣れな人にとっては煩わしいだけの「垣根」を作ることになります。

先に役所の例を挙げましたが、その場合は電話帳などを見て直接目星を付けた部署に電話をかけ、そこから違う部署に回されて……と、実際には嫌なものですが、市民(=ユーザー)にとっては「点から点への移動」で済みます。

ところがコンピュータやWebサイトの場合、大分類から中分類に移動し、その中で小分類を探して、見つからなければ1つ上の中分類に戻って探し直し、それでも見つからなければさらに上の大分類にさかのぼって……と、煩わしいことこの上ありません。

なぜならコンピュータやWebサイトには、「ああ、その件でしたら××課にお願いします」などと(電話口ではぶっきらぼうで冷たい印象かもしれませんが)親切にたらい回ししてくれる<人間>が介在していないためです。


- ユーザーにとってのシンプルを考える -

場合によっては、すべての項目を平面的に列挙するような――つまり階層構造の一切ない――形式の方が分かりやすいことだってあります。もちろん、多数の商品やサービスを扱う企業では、そうはいかないでしょう。しかし、たくさんの複雑なコンテンツをうまくまとめて、可能な限りシンプルな(項目数の少ない)構造とすることは、不可能ではありません。

大切なことは、各項目に対して「提供する側(制作者)がどのように捉えているか」ではなく「ユーザーがどのように捉えるだろうか?」を把握することです。商品検索のページが「型番からしか探せない」のでは、型番を知らないユーザーは利用できません。型番を知るには、商品紹介のページで一覧表から探さなければならない……という形になっていれば、その時点でユーザーは嫌になります。

例えばカメラメーカーのサイトでは、一般ユーザーはまず「一眼レフなのかコンパクトカメラなのか」「フィルムカメラなのかデジタルカメラなのか」「本体なのかレンズなのか」という大分類で目的のページを探そうとするでしょう。あるいは「製品の略称や通称」で該当商品を探そうとするかもしれません。

ユーザーの立場に立ち、「お客様は何についてどのように知っていて、それを我々提供者はどう捉えるべきか」を考えなければなりません。


- 階層の深さは曲者 -

特に、階層の深さには注意が必要です。「そんなこと言ったって、取扱商品が多岐にわたるのだから、明確な分類をしようとすれば階層は深くなるのが当たり前だろ」と思った人、あなたは既に「提供する側の論理の罠」にはまっています。

商品が多岐にわたるのは会社の都合であって、ユーザーはその中の「ただ1つの商品」を購入したり、あるいはそれを購入しようと思って情報を得たいのであって、あなたの会社の取扱商品すべてを知りたいのではありません。逆に、Webサイトの構造が秀逸で、ユーザーが簡単に目的の情報にたどり着ければ、ユーザ-が目指していた1つの商品を皮切りに、他の商品にも触手が伸びるかもしれません。

ユーザーにとって、たくさんの商品やたくさんの顧客サービスがあるかないか、そんなことは二義的なことです。自分の得たい情報を簡単に得られるかどうか、それがすべてです。そのために、とにかく分かりやすいすっきりとした構造を作るべきです。


あとがき

自分の作った(または作ろうとしている)サイトあるいはアプリケーションのユーザーを想定することは、非常に重要です。今回は概念的な話題に終始してしまい、またプログラミングの話題からは遊離したように思えるかもしれません。しかし「ユーザー像を正しく想定する」ことは、開発を担当する人には是非とも意識していただきたい重要な部分です。

他者に対する想像力はプログラミングだけではなく、すべてのコミュニケーションにとって重要なことです。

次回は、具体的なユーザーインターフェイス設計や個々の機能の実装など、具体的な「扱いやすさ」を取り上げます。


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